ごあいさつ
家族の勧めでこのホームページを立ち上げてから、どれくらいの月日が経ったでしょうか。また、果たしてこれを覗いてくださる方がおられるのかどうかも判然としません。しかし個人的には始めて良かったと思っています。昔から、本を読んでも暫くすると読んだことすら忘れてしまう始末です。なにかを読んだ後、一旦立ち止まって内容を整理し、メモする習慣は悪くないと思うようになりました。このブログを立ち上げてくれた娘に言わせますと、最近は活字離れが進んでいるので、たとえばYouTubeで動画を発信してはどうかとのことですが、文化や文学について語るにはやはり書き言葉がふさわしいのではないかと思う次第です。そこで、最近このサイトの「翁草」において、スペインやラテンアメリカの文学作品についてごく短い紹介も手掛けることにしました。
2004年に外務省退官後、かねてからの夢でもあり、またスペイン語の世界に日本のファンを増やしたいとの思いから、日本の古典文学のスペイン語訳に本格的に取り組むことにしました。そして日本中世文学の代表的な随筆『方丈記』(2004)を皮切りに、室町小歌の珠玉を集めた『閑吟集』(2012)、平安時代末期に編まれた歌謡集『梁塵秘抄』(2013)、『芭蕉の紀行・日記篇』(2015)、井原西鶴の町人物の代表作『世間胸算用』(2016) 、石川啄木の『ローマ字日記』(2018)および『悲しき玩具』(2019)、親鸞聖人と弟子・唯円の対話『歎異抄』(2020)、さらに倉田百三の『出家とその弟子』(2022)などをベネズエラ、アルゼンチン、スペインで出版しました。
また、日本においては大盛堂書房より日本語・スペイン語音声CD付きの対訳版として『スペイン語で奏でる方丈記』(2015)、『スペイン語で詠う小倉百人一首』(2016)、『スペイン語で親しむ石川啄木 一握の砂』(2017)、『スペイン語で愛でる万葉集』(2020)、『スペイン語で旅するおくのほそ道(以下CDなし)』(2018)、『スペイン語で辿る日本人の死生観』(2022)および『スペイン語で綴る土佐日記』(2022)を刊行しました。
百人一首のスペイン語訳が出版されると、これを基に百人一首を2ヶ国語でピアノ曲に乗せて歌う世界でも初めての「百人一首コンサート」が実施されることとなり、2019年5月には百首達成記念コンサートが東京ウィメンズプラザ・ホールで行われました。
外国の方には、日本の心を知る近道は日本の古典に親しむことだと申し上げたく、また、現代の日本人にとっても、自国語の古典を異なる言語で読み、異なる文化のプリズムを通して、新たな視点で自らの文化を見直すというのも実に興味深い試みではないでしょうか。
2023年12月
伊藤 昌輝
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