アラルコンの『三角帽子』を読んで

 ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン(1833-1891)の不朽の名作『三角帽子』は、民間伝承からとった逸話を、実に魅力のある、愉しい軽妙さで叙述した悲喜劇です。物語もスペイン文学で知られている最も愉快なものの一つで、カルロス4世時代のアンダルシーア一円を蘇えらせています。この短編小説をもとにマヌエル・デ・ファリャが作曲した有名なバレエ音楽も20世紀のあらゆるオペラ劇場で喝采を博したそうです。また、この作品をもとに少なくとも3つの映画が製作されています。原作は波乱万丈の込み入った筋書きですが、大筋はほぼ以下のとおりです。

 主人公は粉屋を営むルカスと共働きの女房フラスキタ。子宝に恵まれませんが、商売繁盛で、幸せな生活を送っています。彼は容貌では劣りますが、愛想よく、分別も才知も備えています。また彼女はとびきりの美人で、しかも明るく、上品で、働き者です。夫妻はしばしば家で宴会を催し、そこには町の要人も参加します。フラスキタはとりわけ出席者の人気者ですが、夫婦は互いに心から信頼し合っています。

 ところが、この宴会の常連である代官は彼女に対して単なる賞賛以上の感情を抱き、部下の警吏ガルドゥニャの手助けを得て、彼女を征服しようと企みます。二人はルカスを遠ざけるため、ある夜、口実を作って彼を隣の村へ行かせます。代官はその隙に彼の家に押し入ろうと出かけますが、家の近くの水溜めに落ちます。彼の叫び声を聞いたフラスキタは扉を開けますが、すぐに彼の意図に気づき、ロバに跨って夫を探しに出かけます。代官は全身ずぶぬれで、衣服を脱ぎ、ベッドに横たわります。

 一方ルカスは騙されたことに気づき急いで自宅に戻ろうとします。途中妻とすれ違いますが、暗い夜のこと、どちらも気づきません。ところが二人のロバたちは互いに気づき、相手に鳴き声をあげます。ルカスが家に戻ると、代官の衣服が床に脱ぎ捨ててあります。そこで寝室の鍵穴から中を覗き、彼は名誉を傷つけられたと思い込み、不貞の二人を殺そうとします。が、すぐにもっと良い仕返しの方法を思いつきます。代官の衣服に着替え、代官の家へ赴いて不名誉の仕返しをすることです。

 翌日、代官とガルドゥニャとフラスキタが代官の家で出くわします。代官は粉屋ルカスの衣服をまとっており、代官夫人は彼が自分の夫であることに気づかない振りをします。それだけではありません。代官は家で寝ていますよと3人に告げます。みんな憤慨し、互いに説明を求め合い、不倫を責め立てます。

 フラスキタは2頭のロバの話を引き合いに出し、自らの無実を証明します。代官夫人はルカスの仕返しを思い留まらせようと、種々の策を弄したことを説明します。そして夫、代官のそもそもの振る舞いを厳しく非難します。いろいろと複雑ないきさつがありましたが、代官も粉屋もその目的を遂げることなく、代官夫人と粉屋の女房の美徳が確認され、物語はめでたし、めでたしで終わります。

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