最近、コロンビアのフェルナンド・バルボサ教授のご紹介で、ウルグアイの小説家兼詩人マリオ・ベネデッティの『俳句の片隅』という本に出会いました。ベネデッティは20世紀ラテンアメリカにおける最も重要な作家の一人です。224句から成る俳句集で、1999年にブエノス・アイレスのSudamericanaから出版されています。概して南米では俳句はあまり知られておらず、ましてや創作する人はほとんどいません。唯一の例外はホルヘ・ルイス・ボルヘスで、ボルヘスはマリア・コダマに捧げた作品La Cifra (1981)において翻訳ではない独自の俳句17句を収めています。(興味深いことに17という数字は俳句定型の17音と合致します。ボルヘスは日本の古典俳句の定型に厳密に従っています。)
ベネデッティは序文で以下のように告白しています。
「もちろん自分は日本の詩人の真似をすることはしなかった。また、彼らの好むイメージやテーマに合わせることも、俳句の抒情的規範に従うこともせず、むしろ自分自身の浮き沈み、好奇心、風景、感情などに寄り添うことにしたため、これらの「俳句」は自分の他の詩作品と大差はないかも知れない」と。
それではベネデッティの『俳句の片隅』のうちいくつかを選び、味わってみたいと思います。
・死神が夢枕に立ちて歳を数えおり
(la muerte invade / de vez en cuando el sueño / y hace sus cálculos)
・唇寒し予言者も黙して語らず
(por si las moscas / hay profetas que callan / su profecía)
・死は所詮生きていたことの証かな
(después de todo / la muerte es sólo síntoma / de que hubo vida)
・ 静寂ほど耳を聾するものはなし
(hay pocas cosas / tan ensordecedoras / como el silencio)
・ 自死する者は不安の痛みを感じとる人なり
(cada suicida / sabe dónde le aprieta / la incertidumbre)
・ すべてをはるか彼方から眺めて見たし、君とともに
(me gustaría / mirar todo de lejos / pero contigo)
・君の名は知らずとも、それを言ったときの眼差しは覚えおり
(no sé tu nombre / sólo sé la mirada / con que lo dices)
・ もし神様がおられれば誰も面と向かって祈らないだろう、神様を退屈させないため
(si hubiera dios / nadie le rezaría / por no aburrirle)
・君が笑えば大粒の涙わが目にあふれくる
(cuando te ríes / mis ojos te acompañan / con lagrimones)
・ 豪雨あり天から海の降るごとし
(cuando diluvia / pienso que está cayendo / el mar de arriba)
・目を閉じてまた開けるとすべてが変わったような
(cuando mis ojos / se cierran y se abren / todo ha cambiado)
・本当の弱者は決して降参しないとか
(quién lo diría / los débiles de verás / nunca se rinden)
・ 松の木の日暮れに震えるは寒さのせいでなく
(cuando anochece / se estremecen los pinos / y no es de frío)
・ 静かに降る雨 傘の下では接吻
(llueve sin ruido / pero bajo el paraguas / funciona el beso)
・旅に出ると世界も一緒に旅をする
(cuando uno viaja / también viaja / el universo)
・ 埋葬の折僕のボールペンもお忘れなく
(cuando me entierren / por favor no se olviden / de mi bolígrafo)
・ がらんとした寺老聖人たちはひとりトランプ哉
(templo vacío / los viejos santos juegan / un solitario)
・ 囚人が夢見るのは鍵の形をしたものばかり
(el preso sueña / algo que siempre tiene / forma de llave)
・ 煉獄には待合室やバーや洗面所があるか知らん
(el purgatorio / tiene sala de espera / y un bar y aseos)
・ 悲観論者は情報に通じた楽観主義者なり
(un pesimista / es sólo un optimista / bien informado)
・ 流行が過ぎしあと残るはがらくたばかり
(Las modas pasan, los escombros quedan)
・ 最後の審判の日弁護人が付いてくれるかしら
(Preciso abogado para defensa en Juicio Final)
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