アグスティン・モレートの戯曲『侮蔑には侮蔑』

 アグスティン・モレート(1618-1669)は、神父を務めたこともあるスペイン黄金世紀の劇作家です。この作品の主題は、恋する相手にはこちらから積極的に近づくのではなく、逆に冷たくあしらうことによって相手の恋心をかきたてるのがよいと説いた、彼の最も愉しい舞台喜劇の一つです。スペインの宮廷を舞台にしており、1675年にはマドリード王宮劇場でも上演されたそうです。

 ウルヘル(スペイン北東部)の伯爵カルロスはバルセロナ伯爵に招かれ、フォックス伯爵およびベアルネ王子とともにバルセロナに赴きます。バルセロナ伯爵は一人娘のディアナが唯一の世継ぎであるため、早く良い相手を見つけたいと思いつつも無理強いはしたくない、と思っているようです。彼女は内気な女性で、恋をするのは苦手です。むしろ哲学や文学に夢中で、恋をするのは女性にとってマイナスであるとすら考えています。多くの紳士が彼女をものにしようと近づきますが、彼女は相手にしません。ところがカルロスは、ディアナが特に美人であると思ったわけでなく、彼女から冷たくあしらわれたために却って彼女に惹かれます。

 そこで彼女を射止めようとしますが、内気な彼はなかなか行動に移せず、召使のポリーリャの助けを借ります。そして彼の忠告に従って彼女と同じ手を使って彼女の抵抗を打ち砕こうとします。ディアナはシンティア、ラウラ、フェニサといった侍女たちに囲まれ、恋をののしるような本を耽読しながら暮らしています。カルロスの召使いポリーリャは彼女への助言を口実に医者を装い、カニキという名で彼女宅に出入りすることとなりますが、本当の狙いは彼女の気持ちを自分の主人に有利な方へ向けることでした。カルロスは自分に対するディアナの態度よりも更にひどく彼女を見下す振りをして、自分は彼女が好きでもなく、好かれようとも思っていないという風を装います。気を悪くした彼女は彼に挑戦を試みます。

 カーニバルのお祭で、仮面を被った女性たちが男性とペアーを組むゲームがあり、ディアナはポリーリャの差配でカルロスと組むことになります。カルロスは彼女に愛を告白しますが、その後あれはカーニバルの遊びであったと述べたため、ディアナは屈辱を感じますが、諦めません。彼女と彼女の侍女たちは歌を歌って彼を庭に誘い出そうとしますが、カルロスは内心大いに動揺しながらも無視します。ディアナが自分はベアルネ王子と結婚するかも知れないと言うので、カルロスは嫉妬に狂いますが、ポリーリャの助言に従ってそのまま態度を変えず、自分はシンテイアが好きだと述べたり、ベアルネ王子には自分はディアナと結婚するのだと告げたりします。

 最後にバルセロナ伯爵が登場します。そしてカルロスは伯爵に自らの本心を打ち明け、ディアナもカルロスとの結婚を望む旨を伝えます。なお、シンティアはベアルネ王子と、フェニサはフォックス伯爵と、カニキことポリーリャはラウラと結ばれ、めでたし、めでたしの大団円となります。

                                    (了)

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