ロペ・デ・ベガの『国王こそ無二の判官』

 ロペの戯曲『世の片隅にある農夫』については既にお話しましたが、今回は『国王こそ無二の判官』という同作家の別の戯曲をご紹介します。ロペの生涯はまるで小説のような冒険と、烈しい情熱と、中産階級的な徳行の混淆だったようです。そして驚くほど早熟で、10歳のころから書き始め、夥しい量の作品を残しています。この『国王こそ無二の判官』は彼の多くの作品のなかでも特に彼らしい作品として評論家の注目を集めてきました。舞台は12世紀初めのガリシア地方、国王はアルフォンソ7世。同国王はガリシア王、その後カスティーリャ・レオン王となり、また、「全イスパニアの皇帝」をも称していました。

 劇は主人公サンチョがガリシア地方の美しい田園にたたずみながら、恋人エルビラを賛美し、彼女への熱い恋心を歌い上げるところから始まります。彼はもと郷士の家柄ながら、今は貧しい農夫です。エルビラも貴族に属しながら、今は落ちぶれています。サンチョは、その土地の貴族かつ領主で、いわば彼の上司であるテーリョに、恋人エルビラとの結婚の意志を伝え、承諾を求めます。

 領主テーリョは、それはめでたいとお祝いに何頭もの牛や羊を約束するとともに、結婚式への出席と代父役を引き受けます。ところが結婚式の当日、彼女を一目見るなりその美貌に恍惚となり、式はより荘厳にすべきとの口実で、翌日に延期させます。そして、覆面をした家来たちに彼女を拉致させます。テーリョは彼女を口説きますが、彼女は拒みます。サンチョは、エルビラの父親の示唆に従い、国王アルフォンソ7世の助けを求めるためレオンへ赴きます。サンチョの訴えを聞いた国王はテーリョ宛ての書簡を認めますが、テーリョはこれを無視します。そこで国王自身が「捜査官」を装って騎士たちとともに現地に赴きます。その結果、エルビラは解放され、結婚式が延期された後に起こったこと、すなわちテーリョがエルビラを森に連れ出して犯したことなどが明らかにされます。

 国王は到着が遅れたことを後悔しつつ、次のような裁決を下します。
「テーリョはエルビラと結婚し、しかる後に絞首刑に処されること。そしてエルビラの名誉が回復された後、エルビラはテーリョの財産の半分を受け取り、サンチョと結婚できることとする」というものでした。

 片や有力者の横暴、片や農民の正直さと苦悩、そして最後には国王が正義を執行せざるを得なかったというスペインの中世、封建時代を描写した作品です。

コメント