ブレトン・デ・ロス・エレロスの戯曲『一度死ねば分るよ』

 19世紀のロマン主義演劇のなかでもブレトン・デ・ロス・エレロス(1796-1873)は喜劇作家として最も多作かつ多彩な作家であるといわれます。およそ200篇近くもの作品を発表し、そのうちの一つがこの愛すべき作です。彼は幼くして孤児となり、15歳で志願兵として入隊しますが、ムルシアでの色恋沙汰により片目を失います。そしてこんな風刺詩も残しています。 

 神は / 特別のお計らいで / 私に必須のものを残して下さった / 泣くための二つの目と / 見るための一つの目を

 この作品は1837年にマドリードのプリンシペ劇場(後のスペイン劇場)で初めて上演され、大成功を収めた由。

 第一幕は<送別会>。サラゴサのカフェでパブロの送別会が行われている。彼は志願兵としてこれから出陣する。戸外には軍人の行列も見える。送別会には恋人のハシンタやその妹のイサベル、その他すでに軍人(准尉)になっているマティアス等が顔を揃えている。

 第二幕は<死>。パブロとマティアスの所属する部隊がカタルニャに入ってから、何の知らせも手紙も届かず、彼の消息については一切わからない。ハシンタは、パブロがもう自分のことを愛してないのではないか、誰か良い女ができたのではないか、と考える。やきもきしているところにやっと通知が届く。味方の死者6名、負傷者18名、敵の死者120名、負傷者300名とのこと。そこへ准尉のマティアスが戻ってきて、勝利を伝えるためにきたという。パブロについて尋ねると、彼は敵陣に攻め入り、果敢に戦った、たとえ命を落しても十分に戦果を挙げたと語る。ハシンタもイサベルも驚き、イサベルは椅子に泣き崩れる。マティアスはハシンタに、「パブロが自分になんと言ったか知っているか」と訊き、「マティアス、君は僕の親友だ、もし自分が先立つことになれば、ハシンタをよろしく頼む、神も君たちの結婚を祝福するだろう」と告げたと述べ、ハシンタに言い寄る。ハシンタは妹のイサベルが悲しみに沈んでいるのを見て驚き、イサベルは姉のハシンタが思いのほか平静なのを見て驚く。

 第三幕は<埋葬>。パブロはハシンタが心配しているに違いない、早く会いたいと心を弾ませながら町へ戻ってくる。すると教会で葬礼を伝える鐘が鳴っている。パブロは顔を隠して理髪店に入り、誰の葬儀かと尋ねるとパブロだという。理髪師のほか、道行く人の話も聞こえてくる。友人のエリアスはパブロに貸した金の取りはぐれを嘆いている。そこでパブロは初めてエリアスにだけ正体を明かし、心配無用、今後借金を返さずに死ぬことはしないから、と答える。

 第四幕は<復活>。パブロは恋人のハシンタが既にマティアスと婚約していることをエリアスから知らされる。他方、エリアスの話を聞き、イサベルの自分に対する愛の深さを身にしみて感じる。ちょうどその頃、ハシンタとマティアスの婚約式が行われる。二人の署名が終わると、全身を白いマントで覆ったパブロが現れ、「証人が必要だ」と言う。マティアスが「誰だ」と問うと、パブロが「死人だ!」と答える。パブロの姿を目にしたハシンタはおののく。パブロはイサベルとの結婚を宣言して、これは死後結婚で、相手のイサベルはまるで天使のようだという。いちど死んで本当によかったとパブロが述べると、エリアスは、この世は幕間劇のようだという。パブロは、まさにそのとおり、生き方を学ぶには、一度死んでから生き返るのが一番だ、と応じる。

                 

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