この作品はセルバンテスの『模範小説集』の中でも最も短い作品で、最後の作品『犬の対話』の序幕の役割も果たしています。1613年に発表されました。バリャドリードが舞台で、悪者小説を思い起こさせます。スペイン語に「儲けるつもりで損をする」という諺がありますが、この作品はまさにそれを地で行く物語です。

陸軍少尉のカンプサノがバリャドリードの病院からよろよろと出てくる。梅毒の治療のため1か月以上も入院していたのだ。そしてそこで、もう半年以上も会っていない昔の戦友ペラルタ学士と出会う。久しぶりに旧友に会ったペラルタは大喜びで、食事をしながら近況を聞きたいと少尉を自宅に招待する。
少尉が語るには、ある日大尉と自分の住む宿舎に二人の上品な女性が現れ、一人は大尉と、もう一人のベールで顔を隠したエステファニアという女性は自分と話し始めた。彼女の手はとても白く、見事な宝石を身につけていた。彼女にベールを外すよう促したが聞き入れられず、代わりに自分の家を教えるので、召使について来させてはと言う。後日、カンプサノが召使の案内で彼女の家を訪れると、手を見てすぐに彼女であると判った。歳の頃なら30前後、特段美しいというわけではないが、その優しい口調は心に響いた。
彼女に様々な愛の言葉を投げかけたが、彼女はそういう言葉は聞き慣れているようで、4日間通い続けたが、思わしい成果は得られず、またずる賢そうな女中の他には、彼女の親戚あるいは友人らしい者の姿も見られなかった。そのうち彼女は、自分は親や親戚からの遺産はないが、2千5百エスクド相当の家財を有しており、結婚にはこれをかたにするつもりだという。カンプサノは自分も2千エスクド余り持っていると述べ、二人は結婚に同意、4日後にカンプサノの友人二人とエステファニアの従弟立ち合いのもとに式を挙げた。カンプサノは宝石のコレクションを見せながら、生活費として4百レアルを手渡した。そして結婚後しばらくの間、カンプサノは食べては寝るだけの至福のときを過ごした。
ある朝、カンプサノとエステファニアが未だベッドにいると、表の扉を激しく叩く者がいる。家主のドニャ・クレメンタとその知り合いのドン・ローペだった。エステファニアはカンプサノに、なにを聞いても知らぬふりをしているように、後で説明するから、と言い残して部屋を出る。カンプサノはあわてて服を着るが、それを目にした家主のドニャ・クレメンタは驚いて叫び声を上げる。ドニャ・クレメンタは立腹し、エステファニアはもぐもぐ言い訳をしながら夫を別の部屋へ連れて行き、これは遊びだと説明する。ドニャ・クレメンタは自分の友達で、ドン・ローペとの結婚を望んでおり、彼女が自分の部屋を持っていると見せかけるため数日間家を貸してあげるのだという。カンプサノは釈然としないが、議論の暇もなく、服を着替え、下男にトランクを持たせ、エステファニアとともに彼女の別の友達の家に赴く。
その後もカンプサノ夫妻の間で口論は絶えなかったが、ある日エステファニアが留守のとき、家の女将さんが語るには、実はあの家の所有者はドニャ・クレメンタだという。エステファニアは身に着けている衣類の外には一切何も所有していない、ドニャ・クレメンタがご主人に伴って数日間家を留守にするのでその間だけ留守番をエステファニアに頼んだのだという。
これを聞いたカンプサノは怒りに狂って妻を探しに出かけるが、見つからないので家主の家に戻ると、家主が語るには彼女は戻ってきたが、自分の夫にすべて知られてしまったことが判り、トランクの中身を持って、立ち去ったという。少尉が確かめると、確かにトランクの中は空っぽであった。
これを傍で聞いていたペラルタ学士は友人のカンプサノがいつも身に着けていた貴重な宝石の鎖が盗まれたことを嘆くと、カンプサノはそれを否定し、実はあの宝石類もドニャ・エステファニアの持ち物と変わらずすべて偽物だったと話す。この夫妻は互いに相手からどれだけ絞り取れるかを計算していたのだということ、そしてとどのつまりどちらも何も所有していなかったということが判明した。
ドニャ・エステファニアは従弟とともに姿を消し、少尉は騙したつもりが騙されていたのだということに気づくのだった。

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